陸上自衛隊の部隊章・所属パッチの話
こんにちは。sacom worksです。
今回は自衛官のお客様からお問い合わせの多い部隊章及び所属パッチについてのお話です。
なお、こちらで紹介している製品は自衛官向け製品となっており、一般の方の販売は対応しておりませんので、事情ご理解よろしくお願いいたします(駐屯地等あて発送となります)。
部隊章には色々なきまりがある。が・・・
部隊章や職種を示す刺繍パッチについては、WEBで公表されている「陸上自衛官服装細則(※外部リンク:PDF)」に規定があります。
細則によると、部隊章や職種と呼んでいるものはそれぞれ「師団等標識」と「戦闘服用隊号標識」という名称で、この二つを組み合わせたものが「戦闘服用部隊章」とされています。
師団等標識は盾形でマークが入っているもの、戦闘服用隊号標識は細長い形をしていて、アルファベット表記でさらに細かい所属を示しています。米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)のパッチの配置に似た感じですね(グリーンベレーパッチの上に配置されている細いパッチはタブと呼ばれているようです。
名称 | 別の呼び名・似たもの(sacom works調べ) | 内容 |
師団等標識 | 部隊章 | 大きな所属を示すマーク |
戦闘服用隊号標 | 職種・所属パッチ・タブ | 細かい所属を示す略称 |
なお、戦闘服用部隊章は「布製」とあるため、ミリタリーパッチ業界でもよく見られるようになったラバーパッチは使えないということになります。また、「織」や「昇華プリント」などは布と見ることができるので可となりそうですが、一般的には刺繍製品が使われています。
また、色については「台地は緑、その他は黒を基調とする」とあります。
台地というのは生地部分にあたりますが、ODでのご依頼と、陸自迷彩のグリーンに近い緑でのご依頼があります。
官給品(部隊側で支給・貸与するもの:いわゆる官品)でもODだったり緑だったりとバラつきがあるようで、その時の担当者の解釈や入札した業者によって違いがあり、そのまま右へ習え状態になっているのかもしれない…などと考えたりします。ODも緑の一種であると読めなくはないですね。
なお、sacom worksにおいては、3:7くらいで陸自迷彩のグリーン(色見本での陸緑)でのご依頼がやや優勢です。
図案についても寸法の細かな規定がありますが、刺繍屋的には「なぜこの寸法にしたんだ…」と思う部分があります(特に縁取り2mm)。
また、図案によっては、刺繍で再現するには細すぎる線が使われている事もあります。
おそらく製造業者へのリサーチせずに仕様を決めちゃった、お役所仕事的的なところを感じてしまいます(艦艇のエンブレムなどにも言えますが…美しく縫うならそれなりの線の太さなどが必要なのです)。
実際作っている業者側でも苦労しているようで、見せていただいた支給品のサンプルの中にも、服装細則に示された図案や寸法よりも大きく刺繍されている製品もあります。
業者の工夫の跡や力量が見てとれるので、個人的にはなかなか興味深く感じますが、せっかく作るならできる限り仕様どおりに作りたいものです。
しかしながら、規定の2mmの縁取りでは処理が雑になってしまう。さてどうしたものか。
というのも、フチを美しく仕上げつつ、複雑な形状にも切り抜ける、sacomworks独自の二重ツイルヒートカットで対応するためには3mm幅必要なためです。
このため、sacom works製品でも、完全に規定どおりに作られているわけではないという事を予めご了承いただければと思います(雑でもよければ2mmでも作れますが、目に見えて仕上がりが雑になりますよ)。
部隊章+職種の一体型のメリット
服装細則によると「師団等標識」「戦闘服用隊号標識」の取り付けはベルクロ(面ファスナー:マジックテープなどとも)を介して取り付けることとなっており、官給品では「師団等標識」「戦闘服用隊号標識」と別れた形で支給(貸与?)されるようです。
しかし細長い「戦闘服用隊号標識(職種パッチ)」に関しては、「訓練中などに剥がれて無くしてしまう」という問題がたびたび発生しているようで、隊員さんには悩みの種にもなっているようです。
刺繍パッチのベルクロはメンテナンス性に優れており便利ではありますが、接着力が小さくなってしまう小型のパッチや細いパッチは、藪などに引っかけて剥がれてしまう可能性が高くなってしまうのです。
また、服装細則によると面ファスナ(めす)を戦闘服側に取り付けるのと記載されていますが、ミリタリー業界では一般的なモジャモジャタイプ(モヘア)ではなく、タオル地のようなタイプもあります。
服装細則の画像では後者のタオル地タイプのようにも見えますが、このタイプはモヘアより痛みにくいですが接着力が低いので、いつの間にか剥がれてしまうという問題が生じやすくなると思われます。
これらの問題解消のためか、隊員さんからは「師団等標識」「戦闘服用隊号標識」が一体となったパターンでご依頼いただいています。ベルクロの圧着面積が大きくなるので、剥がれにくくなるというわけです。
一体型でも作り方は色々
なお、この一体型パターンでも作り方は色々あります。特に業者間で違いや特徴がみられるのは、例のフチの作り方です。
特にネックとなるのが「師団等標識」「戦闘服用隊号標識」の接合部分にあるえぐれた部分(内角:うちかど)の処理についてです。
パッチのフチの作り方にはハンドカット(手で切り抜く)、ヒートカット、ロック加工(メロウエッジ)などがありますが、いずれの手法でも内角を作るのは難しいものです。
専用のロックミシンの構造上、ロック加工でエッジの効いた内角を作るのはしんどいので、基本的にハンドカットかヒートカットで作ることになるかと思います。
一方で、一般的にはフチを包むように処理するロック加工に比べ、生地がはみ出してしまうハンドカットやヒートカットは、仕上がりがちょっと悪くなる傾向があります。
sacom worksでは独自開発した二重ツイルヒートカット(※3mm幅必要)を用いて、参考画像のようにえぐれている部分も切り抜くことは可能です。
また、図案の周囲にさらに2mm程度の緑系の糸で縁取りを設けたり、内角部分を残した縦長のシールド型の作ってしまう方法もあり、この形の一体型パッチが流通しているものもよく見かけます。
この方法だとベルクロの接着面積がより大きくなるうえ、ひっかかりの要素が無くなるので、耐久性も良くなると考えられますが、sacom worksで作る場合は二重ツイルが使えなくなりますので、黒いフチの外側にさらに1.5mm幅の縁を設けて処理する形になります。
一方で仕様(服装細則)からさらにかけ離れてしまうという課題もあるので、どちらが良いはご依頼いただく隊員さんの判断によるところが多いかなと思いますが、だいたいの場合は内角をえぐって処理する二重ツイルヒートカットでご依頼いただいております。
仕様やデザインを決めるなら
さて、最後に書いておきたい事としては、部隊章や艦艇のエンブレム、それに類する仕様(規格や細則)を選定・決定する担当者様には、必要な時にパッチやその他必要な物品を作れるのか、何らかの形で予め確認したうえで作図・選定してほしいという事です。
特に部隊章など大量に製作する場合は一般競争入札になると思われます。
sacom worksは一般的な刺繍パッチよりもより精密な刺繍を作る自信はありますが、かといって随意契約できる要素のものでもなさそうですし…できるだけ多くの刺繍店が安定して作れる図案・仕様になっていることは重要だと思うのです。
sacom worksでは刺繍パッチ・ワッペンのデザインのルールについて紹介していますが、これもまた独自ルールであり、印刷物などと違って共通仕様(業界の標準)というわけでもありません。
このような理由により、複数の業者への事前ヒアリングなども必要なのではないかと思う次第です。